名も無き者たちの戦い
コーヒーブレイク (こちらは、実際のニュースからヒントを得て、脚色したフィクションです。)
第一指令「彼らを生還させよ」
状況はかなり悪かった。
アゾフスターリン製鉄所内には、まだ女性、子ども、老人たちが避難生活を続けていた。
ロシアの容赦ないミサイル攻撃は、あれほど攻略が難しいと言われていた要塞に多くの物理的ダメージを与えていた。
アゾフ連隊は、アリの巣のような要塞で、激しい抵抗を続け、応援を待っていた。
私たちに始めから疑問がなかったわけではない。
彼らは、一部でネオナチの過去を持つ組織であるとの前評判を聞いていたからだ。
ボスの指令によれば、「人道的に、女性や子どもを助ける必要がある」とのことだった。
私たちは、状況を把握するために、アゾフスターリン製鉄所とアゾフ大隊のリサーチを早急に行った。
アゾフ大隊とは?
CNNの報道によれば、ロシアのプーチン大統領は今回のウクライナ侵攻を「ネオナチ」の手からロシア語話者を守る「特別作戦」と位置付けていた。
プーチンは2022年2月24日の侵攻開始直前に行った演説で、ウクライナの「非軍事化と非ナチス化を目指す」と表明。
(これはウクライナのゼレンスキー大統領がユダヤ人であることを考えれば、国際社会からは説得力に欠けるものだったのだが)
プーチンはネオナチを裏付ける根拠として、極右の「アゾフ運動」に言及していた。
確かに、この運動は、過去10年、ウクライナの軍事・政治情勢の一部となっていたことは事実のようだ。
違っていたのは、アゾフ大隊が2016年の時点で、極右「国民軍団党」の設立に伴い正式に離脱し、その後はウクライナ国家親衛隊に統合されていたことだった。
ウクライナ国家親衛隊への統合後、アメリカ連邦議会で、アゾフ運動を外国テロ組織に指定する案が上がったとき、ウクライナの当時のアバコフ首相が、彼らを擁護するほど、もはやネオナチとは分離した組織だったと言える。
彼らがネオナチだとするメディア報道は、ロシアの侵攻の正当性を感情に訴えるため、意図的に強調された情報だった。
不運なことに、アゾフ大隊が、効果的戦闘部隊としてウクライナのために地域の紛争対処の一役を担おうと、10年来の思想やエンブレムイメージが、完全に市民から払拭されることはなかったようだ。
私たちは、リサーチの結果、アゾフ大隊の方を信じた。
そんなアゾフ大隊が拠点としていたのが、マリウポリだ。
ロシアメディアは、侵攻後も、しきりに国民を欺くためのプロパガンダを流し続けていた。
ロシアの情弱な層の国民は、「アゾフが停戦に向けての人道回廊を妨害している」「市民を人間の盾にしている」といった報道を信じるより他はなかっただろう。
しかし、真実は、アゾフのデニス少佐が、テレグラム動画を用いて、「民間人の移動のための安全な回廊を作る試みは、集合場所へのロシア軍からの発砲によって失敗した」と訴えていた。
国連が仲介として、最後の存在感を示すため、今回の停戦と民間人開放を、何が何でも成功しなければならないと考えたことは、ボスのいつにない現場主義から想像できた。
引用記事:『極右「アゾフ大隊」、ウクライナの抵抗で存在感 ネオナチの過去がロシアの攻撃材料に』CNN World ANALYSIS (2022. 4. 2)
不確かな繋がり
「カウンセラー、今回の作戦は?」
「その呼び方、ヤメレ。(ま、ばばあって呼ばれるよりマシか、、、)」
「要するに、アゾフが誤解されていることがわかった以上、それを修正することが得策だと思う。彼らが、”いい奴らであって、見殺しにするのは可哀想ではないか”という世論にもって行ってはどうか?」
「よし、それで行こう。ところで、雨傘は最近、見ないがどうした?」
「私も確認できていない。Twitterが更新されなくなって、もう1か月近く経つね。っていうか、あの華奢な体で戦場で生き残ってることが不思議だよ。彼はいったい何者なの?」
「俺も分からない。香港出身ってことだけだ。」
「あぁ、それで雨傘ね、、、」
「アンカラは兵役終わったんだっけ?」
「6ヶ月だから、もう戻ってる。お父さんと和んでた。けど最近トルコはSNSの規制に乗り出してる。教えたら、めっさ怒ってたけど」
「近いから逆に危険だな。彼には今回、声をかけずにおこう」
「了解、チーフ」
「エルドアンについては、どう思う?」
「それは、発達心理学的にどうかってこと?それとも、今の心理状況?」
「聞く相手、間違えた、、、」
「オレに地政学、経済、物理学のことは聞くなって、ずっと言ってるよね」
「数学もだろ?よく生きてきたよな、おまえこそ」
「はいはい、オレは先生がいないと、ポンコツですよ」
「人の心ばかり読んでないで、ちっとはお前自身の内面解明しろ、少年」
「ちぇっ、バレてたか」
解明不可

しかし、歴史を変えることはできません。過去を変えることもできません。私はあなた方に、世界で最も才能のあるあなた方に呼びかけます。私たちは、歴史を正しく記録し、真実を明らかにし、マリウポリの人々や、命を捧げた人々が決して忘れ去られないようにすることができます。
なぜなら、映画は記憶を形成し、記憶は歴史を形成するからです。2024.3.10 第96回アカデミー賞授賞式
ミスティスラフ・チェルノフ監督の受賞コメント
国連の粘り強い交渉の末、プーチンは一時停戦と、その間の人道回廊の安全性確保を軍部とワグネルに命じた。
最終的に、孤立して脱出できなかったアゾフスターリン製鉄所内の民間人は、国連が手配したバスで安全な避難所拠点へ送り届けられた。
一時停戦が解除された後、プーチンは、要塞への水責めを匂わせ、アゾフ大隊へ投降を提案した。
しかし、依然として、彼らがその提案を受け入れる様子はなかった。無理もない、投降後の運命は普通に想像できた。
ボスは、人質救出という大役をやり遂げた後も、不思議と彼らを助けるべしとした。
時に、人間は理屈では説明できない行動をする。それが人としての長所でもあり、短所でもあるのだろう。
今回は、それが長所として動いたようだった。ただ、いつものように、それを立証することは不可能だった。
未来への希望
「カウンセラー、何が起こった?」
「プーチンが、水責め計画を取り消して、アゾフを投降させ、安全に送り届けられた。終了」
「だから、どうして、そうなったって聞いてる」
「心が動いた」
「おい、冗談だろ?」
「そうだね。しかし、私の読みでは、プーチンは最後の最後で弱気になったんだ。」
「今までは演じていたとでも?」
「何かを率いる統率力を重視する場合、情や感情は捨てるのが普通だからね。」
「何で弱気になったんだ?完全に勝てる戦だろう?」
「殺生への良心が残っていた。っていうごく普通のことだよ。ワグネルの人間としての良心がどこへ吹っ飛んだのか?って疑問だったけど、彼らは麻薬によって統率されていることが分かった。麻薬で人の心を麻痺させている、、、それも元々は良心があったためだったと分析するよ」
「ところで、総括として、ボスから良い知らせと悪い知らせが来たらしいんだけど、どっちから聞く?」
「悪い知らせから」
「今回、Twitterで書き込んだ中に、事前情報が漏れて、相手との交渉に遅延が起きる事象が発生した。リサーチが得意なのは分かるが、リサーチし過ぎるな、承認欲求のある連中をきちんと管理しろってさ」
「管理って、、、、で、良い知らせは?」
「今回の成功を認めて、特別に公式の採用枠が設けられた。興味のある各国の人材は、応募するようにって。」
「おい、冗談だろ。まったくボスは、俺たちのことを理解していないようだな、、、」
「そうだね。そんな状況にあったら、今こんなボランティアしてないから(笑)」
「えーと、あの、英語はできなくても応募できますか」
「無理だと思う」「終了」「応募してみたら?意外と外見で採用されるかも」
「採用されたら、二度と話しかけるなよー」
「それは酷いんじゃない?」
「利権が絡むと」「腐る」「終わりだね」
「確かに私たちの条件の二つのうち、一つが内発的動機だ。」
「二つ?もう一つは何だっけ?」
「言ってなかったっけ?皆んなそれぞれ、過去を振り返って心に手を当てれば解ることだ」
「それって、まさか!」「え?皆んなそうだったの?」
「ふふ、見えないよね。そういうことなんで、お疲れー。以上」
「また、次のミッションで」「運良く出会えばの話だけど」
「おう!」「了解」「OK ばばあ」
「ばばあ、言うてるし、、、」